出版倉庫連絡協議会米国RFID視察について
出版倉庫連絡協議会米国RFID視察団
団長 村岡 正康
(株式会社 数理計画 代表取締役)
とても小さな、ナノテクといった言葉が世の中、とくに新聞紙上を賑わす今日この頃。小さな無線通信ICとアンテナ。この2つからなる「無線タグ(RFID)」。
しかし小さい小さいといっても目に見えない程小さくはない。実際アンテナ部分を含めると長さ的には5センチはあるが、ユビキタス時代の牽引役として注目を集めている。この流れは出版界にも波及し、特に物流部門ではバーコードに替わる強力な武器になるのではと期待されている。なぜなら一つひとつの固体(製品)にこのタグを付けるとすると、人手を介さずに複数の固体を一括で識別できる。たとえばダンボール箱の中身を開封せずに数秒で読み取ることが可能である。この特徴を最大限生かせる分野はいうまでもなく物流拠点であり、物流合理化の強力な武器になりえるとの見方は強い。応用分野は物流にとどまらず店舗でのレジ処理、マーケティング、在庫管理さらには万引き防止のシステム等無限といえる。
一方食品業界で問題となっているトレーサビリティの解決策としても優力な手法と思われる。さらに進み、すべての物に「無線タグ」が取り付けられるとすると、現在地図上で行われているナビゲーション・システムが実際の街中でリアルタイムでなされる可能性がある。
今回の視察の中、ニューヨークのプラダでの利用方法の延長上に、私は看板に建物に電柱に町名表示板に、このタグを埋め込めば盲人のためのショッピング情報、観光案内付きナビゲーション・システムが可能かな?と考え、さらにはリアルタイム地図を夢見た次第である。よく考えたらすでに美術館等に似たようなシステムがあり、私の発想もたいした物でないことが判明した。
さて利点ばかりに目がいってしまうが、こうした環境を実現するまでに乗り越えるべき課題が少なくない。最大の課題は無線タグや利用システムの導入コストである。無線タグも量産によりかなりの低価格になるであろうが、通信方式やID番号の振り方などの技術仕様がバラバラでは、かってのビデオ、あるいはDVDの二の舞になる可能性がある。
このような背景のもと、今回の調査団は以下に示す6個の課題、視点をもってアメリカ(ニューヨーク、ボストン、ワシントン、シリコンバレー)視察を行った。
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(1)コストの問題 |
まだまだ高価である |
| (2)技術的問題 |
読み取り精度、媒体加工技術等の問題 |
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実際の書籍に埋め込んだ場合のタグの動作保証 |
| (3)利用環境整備の問題 |
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日本国内電波法とのかかわり |
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インフラ整備の問題 |
| (4)セキュリティ問題 |
| (5)リサイクル上の処理技術問題 |
| (6)無線タグの規格、運用方式の標準化の問題 |
しかし、今回の調査でこの無線タグの諸問題はインターネットのメールやWWWの場合と同様に早急に解決されるであろうと感じた。鶏と卵の関係ではあるが、ある分野での本格採用が始まれば技術開発は急速に進展する。本格普及による量産効果と、周辺技術の進化が相乗効果を生み、導入コストは今後急速に低下するであろう。出版業界での導入は「ICタグ技術協力企業コンソーシアム」「ICタグ研究委員会」等での調査研究を待たなければならないが、各企業では出版業界SCM(サプライ・チェーン・マネージメント)の各断面での利用方法を、特にメモリー特性を考慮し、調査研究する必要があろうと考える。
この報告書をまとめるに当たって、限られた時間の中で調査が不十分な所もあり、また調査団員各自によって捉え方は微妙な差異はあるが、予見、予断を避け、不明な点あるいは曖昧な点等についてはそのまま記し、生の材料を提供する、という姿勢でまとめさせて頂いた。
最後に、アメリカでのテロ対策下空港での厳しい手荷物検査、東海岸から西海岸までのハードなスケジュールにもかかわらず、最後まで熱心に調査を実施して頂いた団員各位に感謝するとともに、オーガナイザーとしての昭和図書株式会社にお礼を申し上げる次第である。 |